展示会に来られる方からよく頂くのが「ギャッベとペルシャ絨毯の違いって何ですか?」という質問です。

今回はこれに答えていきたいと思います。

そもそもペルシャ絨毯とは?

日本人の私たちから見ると、高級品、高いというイメージのペルシャ絨毯ですが、なぜ高いのでしょうか?

緻密な織り、デザイン、素材など理由は様々ですがギャッベとペルシャ絨毯の違いを考えるには、そもそもペルシャ絨毯とは何なのか?を理解するところから始まります。

※ギャッベについて知らないという方はこちらの記事をご参照ください

GABBEHとは

まず、ペルシャ絨毯とは以下のものを指します。

『伝統的にペルシアと呼ばれていた現在のイランで生産され続けている絨毯。ペルシア文化、芸術を代表する極めて優れた美術工芸品の一つで、その起源は紀元前の古代ペルシアにまで遡ることができる。床面の敷物だけでなく、壁飾りやテーブルクロスとしても用いられていた。』

ようするに、ペルシャ絨毯とはイランで古くから織られている手織り絨毯の総称です。

ですからギャッベとペルシャ絨毯は別物ではなく、ペルシャ絨毯という大きなカテゴリーの中にギャッベがある、というのが正しい理解です。

ここでは私たちが想像するペルシャ絨毯と、ギャッベの違いについて説明します。

ギャッベとペルシャ絨毯の違い

1.織り方の違い

ペルシャ絨毯は絨毯の毛が立たないペルシャ結び(一重結び)という手法を用います。 ※結びについて説明しだすと長くなるので他で紹介します。

一方のギャッベはトルコ結び(二重結び)になっています。これはギャッベを織るカシュガイ族の女性がトルコ系民族であることによります。

ギャッベでも物によって織り方が様々というのは面白いところです。

このあたりの揺らぎもギャッベを楽しむ魅力の一つといえます。

2.柄の違い

ここではギャッベには見られない、ペルシャ絨毯ならではの代表的な柄を4つ紹介します

・メダリオン

絨毯の中央に配置されたメダリオンはまさにペルシャ絨毯を象徴し、数あるデザインの中でも最も有名で認知度の高いデザインです。万華鏡を覗いた際に見えるようなデザインが特徴的です。一口にメダリオンといっても、メダリオンが複数並ぶボール・メダリオン、四隅にもメダルが配置されたメダリオン・コーナー、19~20世紀にかけて作られたコーナー・プレーンなど、その種類は多岐に渡ります。

・アラベスク

アラベスク、とは日本語に訳すと『アラビア風の』となります。植物の茎が二股に分かれるデザインは、ペルシャ絨毯に興味のない方でも一度や二度は目にしたことがあるのではないでしょうか。アラベスクは他の文様とも組み合わせて様々なペルシャ絨毯で用いられています。

・ドーム

ドーム・デザインその名の通り、ドーム形のモスクの天井を下から見上げたようなデザインになっています。そのため別名「モスク」とも呼ばれます。精巧に織られた放射状の幾何学模様は本当に圧巻。時代を問わず、多くの人を惹きつけてやみません。

・オールオーバー

オールオーバーとは、絨毯一面を花柄やアラベスク等がひしめく総柄になっている絨毯のことを指します。中心にメダリオンが描かれていない分、絨毯自体が実物よりも大きく見える効果があり、開放的な雰囲気を好まれる方から特に愛されている柄です。

 

 

このように、高級なペルシャ絨毯が芸術性を極限まで突き詰めているのに対して、ギャッベはあくまで遊牧民女性の素朴な感性をそのまま絨毯の模様に映し出しています。

ペルシャ絨毯を見ると、その美しさ、高級感、緻密さに圧倒され感動します。その証拠にノット密度でもペルシャ絨毯はギャッベの約9倍~10倍もの密度で込まれています。

その一方、ギャッベはあくまで遊牧民が日常生活のために織ったものです。そのため家族や動物、草木に川や湖など、自然をモチーフにした牧歌的な文様・色は初めて見るのに、不思議と懐かしい親しみを抱いてしまいます。

ペルシャ絨毯の中でも近年は特にギャッベが人気を博しているのも、実はそういう所が理由なのかもしれません。

ギャッベとペルシャ絨毯の違い まとめ

駆け足ですがギャッベとペルシャ絨毯の違いについてまとめてみました。

こうしてみると、どちらの絨毯にもそれぞれ歴史的・文化的背景があり、それが現代まで脈々と受け継がれていることがよく分かりますね。

世間一般でいわれる高級ペルシャ絨毯は私たちが想像する通り、主に格調高い王宮などを中心に使用されてきました。そこには大変長い歴史があり、2500年前の絨毯も発見されているほど。

かの有名なマケドニア王アレクサンドロス2世はキュロス2世の霊廟に飾られた絨毯に目を奪われたという伝承が残っているほどです。

この逸話からも、いかにペルシャ絨毯が芸術品としての側面が強いかが伺えます。

一方のギャッベは遊牧民が日々の生活の中で織り、自分たちの日常用として使用するものでした。

ギャッベの上で団らんをしたり寝転がったり、時には冬の寒さから家畜を守るための家畜用の防寒着として使ったり、その用途は多岐に渡ります。

両者を比べると、ペルシャ絨毯は主にインテリアとしての側面が強く、ギャッベは実用性に重きを置いた形でしょうか。

日本の住宅事情を考慮すると高級ペルシャ絨毯よりもギャッベの方がお手入れがラクで扱いやすいため、現在はギャッベのシェアがジリジリと広がっています。

ギャッベもペルシャ絨毯もどちらも大変素晴らしい絨毯です。もしこの記事を読んで興味が湧いたらぜひその奥深い世界を覗いてみて下さい。